いいことをしたら、いいことがあるよ |
" DO GOOD HAVE GOOD"
岩に無造作に、力強く書かれたメッセージ。
ごくありふれた言葉だけど、この境遇で言われるとかなりぐっとくる。
濃い青空の下、視界が開けた山の尾根を上り下りする。
酸素の薄さで息がすぐに切れるけど、しんどさは微塵も感じず、
テンションを抑えきれず小走りさえもしそうになる。
気付くと一人でだいぶ先まで来ていた。
360度、見渡す限り広がる荒野に自分ひとり。
自然と満面の笑みが浮かび、大声で歌を唄い、踊りながら歩いた。
周りを気にする理由はどこにもない。
羊の大群が私の横を通り過ぎていく。
次から次へと続々 |
とにかく、今まで感じたことない脳内のクリア感だった。
ポジティブな思考が次から次へと頭の中を駆け巡り、
と思ったら完全なる無の状態になる。
クライマーズハイとはこのことか!
ナチュラルな状態でこの境地に達した時、今までの辛く過酷だったトレッキングは
まさにこの瞬間のためのものだったんだなと実感した。
途中で断念せず、繰り返しトライして本当によかった。
山を歩くことと、人の人生はよく似ていると思う。
苦しい箇所を抜けると、予期しない光景が必ず目の前に広がり、
それはしんどければしんどいほど自分に返ってくる。
そして1本の道が様々な人の足によって無数の道になり、
その中から1本の道を自分で選択して、それを繰り返し前へ前へと進む。
人生、山あり谷あり。
まさにそのとおりだ。
縮図 |
次の集落が見えてきた。
茶色い土の上に、畑の緑色がぽこぽこと浮かんでいる。
彼女にとっては日常の風景 |
集落全体が見渡せる山の頂上で皆が来るのを待とうと思い、
腰をかけてチョコレートブレイクしていると、
一人のおばさんが集落のほうから山を登ってきた。
私を見つけると優しく微笑みかけ、何気なく私の隣に座った。
その時食べていたチョコレートを半分に割っておばさんに差し出すと、
少し申し訳なさそうに、でも嬉しそうに受け取った。
だけどその場でチョコレートを食べず、
とても大切そうに布に包んでポケットに入れた。
英語もヒンドゥー語も通じないので何も聞くことができず、
しばし二人で集落を眺めてゆっくりしてると、おばさんはおもむろに
衣服の一番下に首からぶら下げていた手編みの巾着袋の中から
100ルピー札を取り出し、信じられないことに私に差し出した。
チョコレートのお礼なのか?意味が理解できなかった。
チョコレートが高価なものなのは確かだが、100ルピー(200円弱)は
おばさんにとって数日分の食事代に値するほど大きなお金だ。
もちろん受け取ることを断ったが、おばさんも一向に引かず、
最後には押されて受け取ることになった。
おばさんの意志の強さをとても強く感じ、
その不思議な100ルピーは今も財布の中にしまったままだ。
お寺の中 |
集落側の山の斜面には、みんなの家を見下ろすように
立派なゴンパ (チベット系の仏教寺院)がそびえ立っている。
ゴンパに近づいていくと、小豆色の布をまとったモンクたちに明るく声をかけられ、
そのままゴンパの中へと案内してくれた。
街で見てきたゴンパよりもさらに古く伝統的で、
その鮮やか色と繊細な装飾が作り出す重厚な空気感に圧巻された。
中を案内してくれたおじさん |
家族の風景 |
その後お昼休憩とチャイブレイクをし、そのままこの穏やかな集落で
まったりしたいところだったが、今日の目的地まで先はまだまだ長い。
団らんもそこそこに、気合いを入れ直してバックパックを担ぐ。
ここから次のテントポイントまでの約4時間、
目を見張る素晴らしい光景に胸が高鳴りっぱなしだった。
ジェリー、渾身の一枚 |
私、エリオット、ジェリー、そしてスリさんは、ウマたちと一緒にペースよく先を進んでいく。
バッファロー、でか!ちか! |
名前を知っていたら教えてください |
ごつごつした岩に囲まれた谷は、
進むにつれて深さを増していく。
ここを歩いているとき、私の頭の中ではジュラシックパークのテーマソングが
延々と鳴り響いていた。バッファロー、名前の知らない鳥に続いて、
恐竜がひょこっと現れてもおかしくないような世界。
黄土色の土が、やがて白っぽくなり、鮮やかな色へと変化していく。
様々な場所から流れ着いた岩は、赤、青、紫、緑とそれぞれ全く違う色に染まり、
色のバリエーションの広さに感嘆しながら岩の上を飛ぶように歩いた。
目がよくなりそう |
谷を抜けると、急に視界がひらけた。
あそこが今日のテントポイントかな、と目を凝らしてみる。
スリさんとウマたちはすでに先を行き、もう姿さえ見えなかった。
ヨハネス、りょうくん&ちひろちゃんは私たちの後方だったが、
こちらもまったく気配なし。
暗くなるまでにテント張りとご飯作りを済ませるため、先を急ぐ。
予想していたテントポイントは小さな小屋で、
スリさんとウマのご一行はまだ先へ行ったよと小屋にいた少年に聞き、さらにもう一踏ん張り。
そしてついに、ザンスカール川へとつながる川の源泉へ!
。。。とはいえども、ザンスカール川は人が立ち入ることが不可能だと言われるほどの
深い深い谷に囲まれているため、川の実態は見えない。
底が見えない恐怖。
今写真でみると、どえらいとこを歩いていたなと思うけれど、
この時は危険や恐怖をまったく感じなかった。
ただただ爽快で壮大な気持ちに包まれていた。
崖の道を抜けると、見覚えのある景色が目の前にあった。
この目でこの景色を見てみたい、と思って何度も眺めていた写真の一枚、
まさにその光景だった。
実際は、写真の何倍も迫力があり美しく、無我夢中でカメラのシャッターを押した。
順調にテントポイントに着いたので、湧き水で洗濯と水浴びをした。
冷たい山の水で数日分の汚れを洗い流す瞬間は最高に気持ちがいい。
テントを張り、カレーを煮込み、あとはヨハネスとりょうくんちひろちゃんを待つだけ。。
のはずが、この日はここからが長かった。
つづく。
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