“ Dodital湖からDarwa峠の頂上(4150m)への約3時間は、
急な登り坂が続き、頂上からは尾根に沿って歩く、、、”
今回のトレッキングには2つのルートがあって、1つはDarwa峠頂上へ到達後、来た道を引き返すルート。
もうひとつは、頂上からそのまま尾根を歩き、また次の集落へ向かうルート。
私たちのガイドブックには、後者のルートが記載されてあった。
「頂上から先のガイドはいらないのか?」と村人からちょくちょく聞かれ、
「先へ進んだイタリア人男性が、雪が残りすぎてるから引き返してきたよ」
とかいう話を耳にしながらも、まぁ頂上へ着いてからどうするか決めよう、
他に登山グループがいたら、そのガイドにさりげなく付いていこう、気楽にスタートした。
中央の山の頂上へ向かってひたすら登る! |
ガイドブックに書いてあったとおり、確かに急な登り坂がずっと続く。
だけど、おっきな岩をよじ登るアドベンチャーな場所も、ラストスパートの
傾斜のかなりきつい部分も、今までより楽しんで登れるようになっていた。
息が完全に上がっていても、自分のペースで着実に上へ向かっていく快感。
これが登山の楽しさなのかなぁーと少しずつ感じる。あのでっかい山の向こう側は
どうなっているのか、体の疲れと共に期待もどんどん増していく。
そうして頂上へ到達すると、そこには全然違った景色が広がっていた!
目の前には7000m級の山々、そしてこっち側の山の斜面には雪が本当にたくさん残っている。
Darwa Top |
頂上では、私たちの他にインド人登山グループが初めて見る雪に大はしゃぎしている。
彼らはここでゆっくり遊んだ後、来た道を引き返すらしい。
。。ということは、ここから先は本当に私たち4人だけのようだ。
作戦会議中 |
次の集落まではチャイ屋さんも何もない。
順調にいけば、翌日のお昼頃には集落に着く予定なので、今晩分の食料と
多めのチャパティ、ナッツやチョコレート、と最小限の食料を装備していた。
というのもこの時は、山装備以外に4ヶ月分の旅の荷物すべてを担いでいたため、
できるだけ荷物を軽くしたかったのだ。私のバックパックは15kgほどあって、
化粧ポーチや無駄に重い日記帳など、必要ないものが沢山入っていた。
荷物の重さによって歩くしんどさは相当違うが、まぁそうはいっても仕方がないので、
ガイドブックを熟読し、そばにいた他グループのガイドのおじさんに道を聞き、
私たちは先へ進むことに決めた。
理由は単純。まだ知らない土地でわくわくしたいから!
見晴らし最髙の尾根を軽快に歩き出す。
今までの岩場の登り坂とは打って変わって、平坦でだだっ広い。
人が歩いた跡やトレイルはほぼ見当たらず、ただ方角が合ってることを確認しつつ進む。
ガイドブックを何度も開く |
歩き始めて1時間、こんなにトレイルとか関係なく自由に歩いてて大丈夫なのかと少し不安になってきたが、とにかく大きな川に沿っていけば方角は間違いなかったので、残雪を避けながら歩き進める。
しかし残雪の量はさらに増え始め、雪を避けては通れなくなってきた。
雪の斜面の滑り台 |
残雪と同時に低木の茂みも出没し、山の起伏もでてきた。
そしてどこでも歩けるような平坦な場所だったのが、気付けばどこなら安全に歩けるか、
というような場所に変化していた。
ガイドブックに書いてあるような道は、やっぱりまったく見当たらない。
エリオットとジェリーが少し先を歩いて、こっちは大丈夫、こっちは危険すぎる、
てな具合で私とカナエちゃんを先導してルートを選びながら進んだ。
だけど、どんどん大丈夫なルートの選択肢は狭まっていき、
行き当たると崖だったり、シャクナゲの茂みだったり、行く手が次々と阻まれていく。
この時はもうすでに、安全に歩ける道ではなく、何とかぎりぎり歩ける道を進むしかなかった。
心の中で、もう引き返すべきなんじゃないか、と何度も思っていたが、
皆とにかく歩くことだけに集中していたせいか、なぜかそれを口には出せなかった。
この崖を下るしか道はない! |
急な崖を下るか、急斜面の残雪を横切るかどちらか、という場面に出くわした。
エリオットとジェリーが先にゆっくりと崖をくだってゆく。
深い崖のため、二人の姿は見えない中で「こっちには来るなー!」と声だけが聞こえた。
その時エリオットは、岩が地滑りして50mくらい転落していたらしい。
その声を聞いて、私とカナエちゃんは残雪を横切ることに決めた。
距離にして40mほどだけど、傾斜がかなりきつく、下は谷底だった。
ということは、もし滑り落ちたら、限りなく死に近いという極度の緊張感が走る。
もちろんアイゼンは装備していなかったため、左手で雪の斜面に触れバランスを取り、
足で雪を削りながら一歩一歩確実に進む。
とにかく無心で、手の冷たさも荷物を担いでいる感覚も、何も感じなかった。
自分の最大限の集中力を体全体にそそぐ。
なんとか渡り終えた途端、全身ががくがくと震え、下で待ち構えていたエリオットに
「こんなことになってしまってごめん。絶対に大丈夫だから!」
と言われたとき、今まで堪えていた涙が零れてしまった。
カナエちゃんも「ここを越えたらきっとトレイルがあるはず!」と、
とてもポジティブな姿勢だったことに励まされ、一人でめそめそしている場合じゃない!
とすぐに涙を拭った。弱音は口にせずとも、不安でいっぱいいっぱいだった
自分の本質の弱さをこの時思い知った。
ここまで来たら、もう引き返すことはできないんだから、
皆で前向きにやれることをやるしかない。
数百メートル先の眼下に平坦な野原があり、誰かが焚き火をしたような黒い跡が見えた。
日没までそんなに時間はないし、今晩はあそこでテントを張ろうと決め、
もうどうにでもなれという気持ちで最後の力をふり絞る。
雪の下には川が勢いよく流れる |
そこへ向かうには茂みの中を木にぶらさがりながら滑り下り、凍った川の上を横切らなければならなかった。
雪の下から、濁流のゴォーーーという鈍い音が聞こえるのも構わず、
とにかくテントポイントを目指す。(実際この数十メートル下は濁流の滝だった。知らぬが仏)
そして平坦な地に着いてほっとしたのも束の間、テントを張り、ご飯を作り出した。
この前夜のヒョウ出没体験で野生動物への恐怖心も募っていたので、
とりあえず巨大キャンプファイアーのための薪を大量に集める。
この晩困ったことは、水の確保だった。近くの川は勢いが強すぎて水を汲めるような
状態ではなかったため、土混じりの雪を溶かすことにした。
火で雪を溶かし、Tシャツでそれを濾過し、底をカットしたペットボトルでそれを受ける。
こうゆうギリギリの精神状態のとき、普段は思いつかないような
アイデアが本当に自然と浮かぶんだなぁと思った。
ディナータイム |
土まみれの靴下を乾かし、どろどろの足や顔を雪で洗い流す。
水のありがたみをこんなにも感じたことは今までなかった。
夜は焚き火の灯りでガイドブックを何度も読み、翌日の作戦会議をするが、
すべては予想にすぎず、明日動いてみないとどうなるか全く分からない。
ここには、人の気配や人工物が何もない。自然 対 自分。
私たち4人だけがこの自然にぽつんと取り残されたような感覚になった。
パチパチという火花の音と、動物の遠吠えだけが聞こえる深い静寂の中、
ただただ明日無事に帰れることを心から願い、寝袋にくるまった。
その3へつづく。
Thank you for taking some pictures at that time Jeremy!
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