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2014/05/02

ヒマラヤを歩く 〜秘境パールバティ渓谷編, 2日目〜


ヒマラヤ、秘境パールバティ渓谷のトレッキング2日目。

早朝目覚めてテントから身を乗り出すと、当たり前だけど、
前日と同じ光景が目の前にあった。
色鮮やかな花の咲く野原と、6000m越えの山脈。人工物の気配さえない。
普段の生活とはほど遠い光景だけど、すでに違和感なくしっくりきている。

「 今日はずっと尾根歩いていくから、アップダウンほとんどないし楽勝だよ。」
とテク (あちゃの家族の一人) が言うのを聞き、ほっと気を緩ませる。

前晩に下ごしらえしていたカレーを食べられるだけ食べ、また今日一日がスタート
、、、しようとしていると、どこからともなく一人の男性がこちらへ向かって歩いてきた。
トレッキング装備など何もなく、普段着のジャケットを羽織っている彼。
テクと彼が何やら話しをし、特に何の説明も紹介もなく、彼は私たちの先頭を切って歩き出した。
どうやら新たなトレッキングメンバーが加わったようだった。

彼はテクの友人のローカル羊飼いで、ここから先は彼がいないとルートが分からないとのこと。
特に連絡も取り合わずに、この壮大な山で普通に合流したのが何だかシュールだった。

羊飼い兄ちゃん(命名)の後ろを歩いていたはずが、気付くと20mほど遅れをとっていた。
歩くペースがめちゃめちゃ早い。急ぎ足でもないのに、平坦なアスファルトの上を
歩くようにすいすいと歩いている。
聞くと、彼は人生の7割をこの山奥で羊と過ごしているというから、
私たちが街の道を知っているのと同じように、山の歩き方を熟知しているのだ。

彼がもし原宿とか歩いたら人とぶつかりまくるのかな、
いや、意外と人の間をすり抜けられるのかな、とか考えつつ、必死で彼の後を追う。


左、霧。右、晴れ。























山の頂上付近は予想よりも雪が残っており、霧がどんどん深くなってきた。

山の斜面にある幅15cmほどの羊飼いさん用トレイルを、滑り落ちないよう
足元に集中して歩いていると、一瞬で辺りが真っ白になって視界が悪くなった。

そして尾根の雪を避けるため、アップダウンを繰り返すが、それでも雪面を横切ることは避けられない。
遭難したときの雪の上での恐怖体験がよみがえり、
必要以上の緊張をして歩くと、余計に体力が奪われていった。

「アップダウンなし。今日は楽勝。」その言葉は聞かなかったことにしよう。


岩場と霧はセット


















今日はあと1つ問題がある。

昨晩あまりの空腹と高揚感から、野菜と米を消費しすぎて、残りの日程の食料が十分にないことが今朝判明。
昼ご飯抜きで毎日9時間フルで歩くためには、朝晩のエネルギー補給は欠かせない。

そこで通りがかった羊飼いじぃちゃんに、羊飼い兄ちゃんが米を売ってくれないかと交渉。
ちなみに、ローカル羊飼いの人たちには英語はもちろん、ヒンドゥー語も通じない。
雰囲気からすると交渉というより雑談しているような感じ。

結果、米を2kg譲ってくれることに。
しかも「山での助け合いはお互いさまだ、お金は必要ない。」という。
米は山で育てていないので、村から数日かかって持ち運ばなければいけないのに、だ。
言ってみたら私たちは娯楽のために山へ来ているため、申し訳ない気持ちになりながらも、
お金に換わるいっぱいの感謝の気持ちと引き換えに、お米をいただいた。
ほんとうにありがたい。


羊飼いじぃちゃん、ありがとう


















消えそうになかった濃霧も徐々に薄れていき、今まで見えていなかった周りの景色が姿を現してきた。


















テクと羊飼いにぃちゃんが言うには、この山をずっと下っていった先に、中央の川を渡れる橋があるから
それで反対側の山へ渡り、またずっと山を登り下りしながら来た方角へ戻るようだ。
手の仕草だけのアバウトなルート説明だが、食料も限られているし、
とにかくハイペースで歩かなければないない距離なことは間違いない。

歩く先の全貌が見えたら見えたで、ちょっと気が遠くなったが、
その後5時間ほど歩いて、例の橋の手前の今日のテントポイントに到着。
人って案外自分の足で歩けるもんだな、と毎回思う。

さて、お米は十分に確保したが、あとは野菜の調達。
この晩は野菜に代わる、野草をカレーの具のすることになった。
具材はイギリスでよく痛い思いをしたStinging nettle、日本名で刺草(イラクサ)だ。

見た目は大葉のようだが、名称のとおり、葉に触れると電流が走るような痛みが数分続き、
皮膚が赤くなるちょっとやっかいな植物。まさか食べられるとは!

キャンプポイントでテントを張ったあと、全員総出でこれでもかというくらい
無心にイラクサをむしり、葉と茎を分別する。もちろん触りどころが悪いと、電流が走る。


刺草工場


















山盛りになった大量のイラクサをまず沸騰水でぐつぐつ煮ると、
ほうれん草のようにぎゅっと凝縮し、深い緑色になった。それをカレーに投入してさらに煮る。

そしてついに実食。
葉のちくちくは消滅して、栄養素詰まってますって感じの少し苦みのある濃いほうれん草といったお味。
美味しい!
なにより野草を皆で摘んで、メインディッシュにするという付加価値が加わっていた。
具材がなくても、知識と根気があれば何とかなると実感したディナー。最高!


翌日は曇りスタート。
目指していた例の橋で川を渡る。


唯一の橋はこれ

















なかなかのきしみ具合なので、一人ずつ慎重に渡る。

転落すれば、結構めんどうなことになるのは想像できた。難なく全員クリア。
上手に渡るコツは、瞬発的な集中力と無心。

この日、このコツを最大限に発揮する場面に遭遇する。


つづく。







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