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2014/05/18

ヒマラヤを歩く 〜秘境パールバティ渓谷編, 最終章〜


がっつり9時間、ハイペースで三日日間歩き続け、
膝の痛みと疲れが極まってきたトレッキング4日目。

ワイルド橋を渡って、逆サイドの山へ踏み込むと、
真向かいの山なのにまたまったく違った空気が漂っていた。

その理由は、、、人がいるから!


山に暮らす人
















しかも、カマを担いだ老若男女がいっぱい!

山奥で暮らす、集落よりもさらに小さなコミュニティーの人々は、
以前遭難したときに出会った人たちもそうだったけど、とても独特な雰囲気を醸し出している。
彼らはその中でも特に特殊で、信仰心がめちゃくちゃ強いホーリーな人々だと、
同じインド人からも一線を置かれてる。

なんでも、彼らの体に誤って私たちが触れてしまった場合、
高額の罰金を支払わなければならないらしい。
実際、友人が何かを手渡す際危うく手に触れそうになったとき、
その村人は「 Don't touch me!!!」と怒鳴ったのだとか。
うーん、宗教とは、信仰心とは。。。と思わずにはいられない。


しばしの一服休憩タイム
















ヒマラヤの山は、幅、奥行き、高さのすべてにおいて、今まで私が見てきた山の3倍スケールがでかい。

それだけ広くておっきい場所だから、そりゃ見たことない光景や高山植物がたくさん。

カメラに収めたくなる花や風景ばかりなのだが、なんせ歩くペースが早いため
立ち止まってもたもたしているとどんどん置いていかれてしまう。
しかもよそ見をしながら歩くと谷底へ転落する危険もあるから
横目でちらりちらりと見なければならない。
一瞬のチラ見で可能な限りの絵を脳裏に焼きつけ、カメラに記録することをあきらめる。


何としてでもカメラに収めたかったエイリアン花。でかい。




















気の抜ける場所と抜けない場所とで、緊張と緩和を繰り返しながらひたすら歩いていく。
アップダウンとバックパックの重みで膝ががくがくし出してきた。


緊張の橋


緩和の花畑



























歩いていると、エリオットが後ろから私に声をかけた。

「 麻友、とにかく集中して、最大限に気をつけて歩くことを誓ってね。」
と、真剣なトーンで突然言われ、なんだ今さら急に。と思い、その時は適当にうん、
とだけ返事をしたが、その真意は1分後すぐに明らかになった。

冗談でしょってくらいの断崖絶壁が目の前に現れ、
「下だけは絶対に見るな」とだけテクに告げられ、ためらう間もないまま、
羊飼いにぃちゃんの真後ろを歩いていた私はトップバッターで
絶壁横切りへの一歩を気付くと踏み出していた。

足場の幅は私の足のサイズも満たなかったので、15~20cmくらい。
もちろんロープも何もない、垂直の岩壁。
下の深さは見ていなくても、足を滑らせたら一発アウトなのは分かった。
羊飼いにぃちゃんが私の腕を痛いくらい強く掴み、彼は後ろ向きになって私を誘導する。
彼の腕をつかむ力強さが、その場所の危険度を示していた。

手で岩をつかみ、足が置けるスペースを探し、一歩踏み出す。
この動作を、フル稼働の集中力を使って繰り返す。
体と岩とが密着しているため、手を動かすとき肌が岩で擦れるが、
そんなの気にしていられる場合じゃない。

10mほどの距離が、永遠に続くように感じた。
一瞬、急に恐怖感がぞわっと襲ってきて、こわい!もうムリ!!
と泣き言を吐きそうになったが、ここで止まったり弱音を口にしたら、
もう一歩も動けなくなる気がしたためグッとその気持ちを抹消した。

この体勢でバランス崩したらヤバいな、この足の向きミスったな、
っていうか羊飼いにぃちゃん後ろ向きだけど大丈夫!?などと頭の中はフル回転で動く。
湯気でも出てるんじゃないかと思うくらいの集中を全身に巡らせ、
なんとか危険地帯突破に成功!

安心した途端に足が震え出し、体の重さをどっと感じた。
ふぅーー!と安堵のため息を私がもらすと、羊飼いにぃちゃんは
「よく頑張ったね」と言うように優しく私に微笑みかけた。
クールでシャイな彼の、今まで見たことのない笑顔は最高のご褒美だった。


一人ずつ順番待ち。あちゃとケビィンでさえも立っていられない。





















私の後の皆は、私が横切った岩壁より危険度が低いルートを発見していた。

そして後から聞くと、ここで数年前外国人登山者が転落死したため、
この辺りのルートはもう誰にも使われていないのだという。
なんだったんだ、私のあのサバイバル体験は。。と思ったが、
あの瞬間的に力がみなぎる感覚はなかなか味わえないので、これも経験ということで。
無事だったならすべて良し。


お待ちかねのチャイブレイクをしていると、何処からか女性の歌声が聞こえてきた。
周りを見渡しても人の姿はない。
よーくよく見ると、数百メートル上の山のてっぺんに女の人が3人座っている。
その距離を感じさせないほど、彼女たちの声は山に響き渡っていた。
何のことを歌っているのかとテクに聞くと、
作物のために雨が降るように歌っているんだよ。と教えてくれた。

私はまだ、雨が降ってほしいと願った経験はない。
だけど、雨の恵みに心から感謝する日は、そんなに遠くはない気がする。


美しい声の主たち

















歩き続けて8時間ほど経過し、そろそろテントポイントを見つけたい時間帯になってきた。
同時に、雲行きも怪しく、ゴロゴロと空がうねり出した。
。。。雨降れ歌の威力はすさまじい。

もう早いとこテントを張ったほうがいいと判断し、
平らな場所がほとんどなくて水場もないキャンプにはふさわしくはない場所に
仕方なくテントを張り出していると、また何処からか、次は男性の声が聞こえた。

逆サイドのかなり離れた岩壁の斜面に、男性とたくさんの羊たちが張り付いていた。
羊の中には数メートル転落しながら岩壁を横切ってる羊もいる。
岩の羊飼いさんと羊飼いにぃちゃんが、300mくらい離れた距離感で会話を交わす。
この山で暮らすには、尋常じゃない声量とええ声が必須のようだ。

岩に張り付く羊飼いさんは、もう少し山を登ったところに
平らで水場もあるキャンプに最適な場所があるとわざわざ声を張って教えてくれた。
彼の言葉を信じて、一度開いたテントを片付けまた歩き出す。


雨が本格的に降り始め、雷も激しくなってきた。
あと少し、あと少し、皆急ぎ足で登り坂を登る。
ラストスパートの登りはかなり応える。
すぐ近く、と言っていたのに、すでに30分以上経っていた。
本当に、そんなテントスポットあるのか?と疑心暗鬼になり始める。
この山を越えたら、きっと楽園のような野原と水場と、あと温泉があれば本当に最高だね、と、エリオットとあちゃとお互いを励まし合いながら登る。
この時、日本へ帰ったら温泉ありの山登りをしようと心に決めた。

そして約1時間後、ようやく森がひらけた所に完璧なテントスポットが出現した!
よかった、あった、やっと着いた!!

羊の大渋滞























ひと休みする間もなく、テントを張って晩ご飯の準備を始めていると、
羊の大群がやってきた。一匹一匹、色も鳴き声も顔も違う。
羊の表情にはいつも癒される。

雨でどろどろになった頭と体を小川で洗い流し、
至福のご飯の時間。そして雨の音を聞きながらすぐに眠りについた。


次の日の朝、雨は止んでいたが霧と灰色の空。
今日がトレッキング最終日だ。

食料はもうすべて使い切ったので、晩ご飯に向けてひたすら歩くのみ!
3、4時間後、このトレッキングで初めて外国人登山者グループと出会った。
徐々に下界へと近づいていることを感じる。

その登山者の一人が、なんとケビィンと私たちがシッキム州で
一緒に登山をしたフランス人だった。
広い広いヒマラヤのこの秘境で、また偶然の出会いが重なるなんてとても稀だけど、
もう当たり前の流れのように思えてきて特に驚きもしなかった。


その後、雨降れ歌のお導きか、激しい雷雨が3時間ほど降り続く中、
山をくだっていった。歩くというより、泥の地面を滑り下りる感じ。
すがすがしいくらいに雨に濡れた。
歌唄う彼女たちは喜んでいることだろう。

とにかく転ばないように、足を挫かないようにだけ気をつけて
必死のラストスパートパワーを振り絞る。

木々の隙間から集落が見え始め、ついに車道に飛び出たとき、
終わったー。。という達成感と共に、戻ってきた寂しさを感じた。
たった1週間だけでも、完全に手つかずの土地に身を置いた後、
車に乗ったり普段の生活へ戻ると、とっても変な感覚になる。

文明を客観的に強く感じて、自然の世界からこちら側へ
ぽいっと放り出され、自分たちだけ取り残されたような。


どろどろびちゃびちゃの私たち。生還。
















無人の秘境、パールバティ渓谷トレッキング。
正直だいぶタフだったが、かなり鍛え上げられた感触があった。
ワイルドさに磨きをかけてくれたこの山、一緒に歩いてくれたみんな、
山で出会った人々に感謝の気持ちを。



ありがとう!

















次向かうラダックで、このトレッキングでの成果を思いっきり発揮します。


つづく。





Some of photos from Jeremy, Thank you!











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