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2015/01/08

知られざるレソト王国とドラケンスバーグ山脈


世界地図を眺めると、無性にわくわくする。
そうゆう人は、多いのではないだろうか?

私は地図を見ていると、時間を忘れるくらい夢中になってしまう。
南アフリカに来てから寝室の壁に大きなアフリカ大陸の地図貼った。
そしてそれを寝る前に眺めることが、ちょっとした日課になっていた。

今までまじまじと見つめたことがなかったアフリカの国々の地理は
新たな発見の連続で、まだ見ぬ世界に想像が広がる。


ある晩、南アフリカ共和国をじっくり眺めていると、
巨大な南アフリカの中にぽつんと小さな内陸国があるのに気付いた。
そこには、「 LESOTHO 」と書いてある。

気になって調べてみると、その土地はレソト王国という立憲君主制国家で、
国土全体が標高1400mを越える山岳地帯のようだ。
1つの国の中に他の国がすっぽり埋まっている様子は、なんだか不思議でとても魅かれた。
レソト王国に住むソト族の魅力的なブランケット
そしてそのレソト王国から北1000kmに及んで、ドラケンスバーグという
世界で最も古いといわれる山脈が連なっている。

ドラケンスバーグ山脈というと、そういえばエリオットがかねてから
トレッキングをしに行きたいと言っていたことを思い出した。

元々は6000m級の山々が連なるヒマラヤ並の標高をもつ山脈だったらしいが、
雨と風だけで少しずつ少しずつ山が削られ、気の遠くなるような長い年月を経て
今は3000m級の山々で形成されている。

今の姿に至るまでの果てしない過程と深い歴史のことを思うと、
宇宙を想像したときのようなフワッとしたトリップ感を感じた。
どんな山なのか、この目で見て体感してみたい。

そうして2014年の長期ホリデーの旅先は、迷わずドラケンスバーグ山脈に決めた。
南アフリカに住んでいながら、この山へ行かないわけにはいかない!


ドラケンスバーグの冬は頂上付近に雪が積もるようで、夏の今の時期は
午後と夜中に雷を伴った激しい嵐がかなり高い確立で来るらしい。
そしてトレイルはトレッキングルートというよりも村人が放牧の際に
利用している小道なので、迷う可能性も高いようだ。

山を甘く見てはいけないと過去身を持って学んだ私とエリオットは、
更なる情報を得ようとネットでトレッキングについて検索した。
しかしそのトップにあがってきたのは
「登山者が山中でレイプされた」
「ソト族による強盗多発」
「レソトから南アフリカへのマリファナ密輸発見」
といったドキッとするような恐怖と警戒心を煽るような記事ばかりだった。

またか。。たしかにそれは実際起こったことなのだろうが、
南アフリカでは何をするにも行動をためらわせるような警告を真っ先に受ける。
もちろん事前に危険に備えておくことは大切だが、見えない危険に脅かされ、
周りからの過剰な先入観を植え付けられて疑い深くなるのはもう懲り懲りだった。

セキュリティゲートでがっちり囲われたキャンプサイトや野外レイヴなど、
いくら素晴らしい大自然の中だと言ってもどこか違和感を感じ、なんだかふと虚しくなる。

すばらしいデザイン
















白人や観光客向けに用意された場所ではなくて、リアルなところが見たい。
未知の経験には不安が常につきものだ。

登山好きの友人家族に的確なアドバイスをもらい、あとは現地の情報を訪ねよう、
とケープタウンから車で20時間、1500kmの道のりを途中キャンプ泊しながら
2日かけてドラケンスバーグへと向かった。

建物もなにもない乾燥した平らな砂漠地帯を何時間も走っていると、
本当にこの先に雨と緑の豊かな山なんてあるのかと思えてくる。
だが、1時間進むごとに少しずつ植物が増え、自然の色が変化していくのが見て取れた。
土地の移り変わりを肌身で感じられるのは、陸路で時間をかけて移動することの特権だ。
数百キロの差でこんなにも景色が違うものかと驚きを隠せなかった。
どんどん田舎へ















ドラケンスバーグ山脈の入り口に入った途端、急に雷雲が空を覆い、噂どおりの強い雷雨が降り出した。
そして道はコンクリートから、アフリカらしい赤土の道へと変わった。

そこにはトタンで出来た危ういタウンシップの家でもなく、
電子鉄線が張り巡らされた豪邸でもない、藁葺き屋根の素朴な家がぽつぽつと建っていた。

それから今回のトレッキングのスタートポイントであるMnweni村に入ると、
通りすがる人誰もが笑顔であいさつしてくれるようになった。
子供たちは私たちを見つけると、かなり遠くから全力で走り寄ってくる。


女性はみんなカラフルなフリフリを着ている
Mnweni村のあたたかく朗らかな雰囲気は、私たちをとても懐かしい気持ちにさせた。
この感じ、この感じ。それはヒマラヤ奥地の村々で感じたものと同じで、
自然と顔がほころぶ柔らかい独特の感覚だ。
運転席のエリオットのをちらっと見ると、彼の口元が緩んでいた。
そして、あぁここに来てよかった、と心から思った。

ここにはケープタウンで感じる人種や貧富の差の影など微塵もなく、
これが同じ国だというのが信じられないほど人々がのびのびとしていた。
彼らの暮らし方や豊かな表情を見ていると、今まで付きまとっていたモヤモヤが
すっと消えていくようだった。
なんだかこの感覚を忘れかけそうになっていたけど、
生きる幸せってきっとこうゆうシンプルなことだ。

後をどこまでもついて来る子供たち
村に到着した翌日から、私たちは4日間のトレッキングへ出る予定にしていた。

南アフリカのキャンプサイトのほとんどは白人経営なのだが、
この村唯一のMnweni cultural & hiking centreは地元の村人によってゆるく運営されていて、
クリスマス時期にもかかわらず電話一本で翌日からの山岳ガイドも手配してもらえると
いうのでお願いすることにした。これぞ村のコミュニティ。
ガイドさんと一緒だと安全面で安心なのもあるが、
現地の人と山を歩きながら色んな話をすることは、いつもすごく貴重な経験になる。


ガイドのMuayo























今回ガイドをしてくれたMuayoさんは、7人の子供のお父さんで、牛12頭を飼い、
野菜を育てながらガイドの仕事をしている。
とても朗らかで明るい彼は、好奇心全開のエリオットの質問に丁寧に答え、
ネットではない現地のリアルな話を色々聞かせてくれた。


ナチュラルプールには目がない
上の写真の左奥に見える山の頂上から先がレソト王国で、
切り立った崖が南アフリカとレソトの国境ラインになっている。

国境とはいっても、レソト王国の全周を誰かが管理しているわけでも柵があるわけでもなく、
Mnweniから山を登る場合はパスポートも何も持たずレソト王国へ入ることになる。
山へ入ってみると人気がまったくなくなり、いるとしたら思わず遠くまで来すぎてしまった
放牧の牛か羊といったところだった。

そういった環境から、このあたりのトレイルはレソトの高地で栽培されたマリファナを
南アフリカへ密輸入するメインルートになっているというのが現実だ。
Muayoさんによると、彼らは何十匹ものドンキーと馬を引き連れて、
夜中に山を越えて南アフリカへ入るらしい。確かに、私たちが歩いたトレイルには
まだ新しいドンキーの糞が沢山落ちていた。

この話を聞くと自らの身の危険を想像するかもしれないが、
レソトでひそかに栽培したマリファナを何トンも担いで、断崖絶壁の山道を暗闇の中
移動する彼らにとって、私たちのようなキャンプ用品とわずかな食料しか持っていない
登山者を襲うことはめったにないことで、むしろ彼らは人目を避けているとMuayoさんはいう。
実際、Muayoさんが危険な目に遭ったことは過去10年間一度もない。


緑の美しさが半端ない!
高山に位置するレソト王国は、Mnweni村のように作物が育たない。
そのため貧困に苦しむ人も多く、その結果として犯罪につながっている。

Muweni村から牛が盗まれることも多々あるそうで、私たちが山にいた間にも、
隣の峠で家畜を見張っていた村人がソト族に殺されたというのを聞いた。

メディアからの情報だけだと、この山でのトレッキングは危険を伴い、
ソト族は野蛮だというような認識をしてしまいそうになるが、
実際はMnweniの村人もソト族も、本当に穏やかで豊かな心を持つ人々で、
こういった犯罪の背景には厳しい貧困の現状が潜んでいるということを知った。

物事の本質は、自分の目で見ないと本当に何も分からない。


今晩の寝床



そういった根深い問題は数々あれど、彼らはかけがえのない自然の財産を
生まれながらにして持っている。
雨がたくさん降るドラケンスバーグ山脈の緑は、今まで見たどの山とも違う鮮やかな色をしていて、透き通った新鮮な水源もそこら中にある。

そしてこの山の大きな特徴は、何千とある洞窟だ。
突然の雷雨に備えて、毎晩洞窟で寝泊まりすることができるという新しい登山スタイル。
1日目の晩に泊まった洞窟には、狩りをしているような壁画がくっきりと描かれてあった。

この壁画は、ブッシュマンと呼ばれる民族によって描かれたもので、
ドラケンスバーグの洞窟に何万と残っているらしい。
ブッシュマンは少なくとも今から4万年〜10万年以上前にこの山に住んでいたというから、
もうわけがわからなくなるほど未知なる領域だ。
数千年前の壁画














そのずっとずっとはるか昔にもこの山は存在していて、
今いる洞窟でブッシュマンが生活していたと思うと、何とも言えない不思議な気持ちになった。

エリオットも私も普段ほとんど夢を見ない方なのだが、
洞窟で眠った3晩は、二人とも目まぐるしいほど色んな夢を見た。


あの頂上を目指す
二日目は一日中登り坂だった。
じりじりと肌を焼けるのを感じるほど、太陽の日差しが強い。

久々のトレッキングだったため、感覚を取り戻すようにペースを保ちながら登る。
高山の空気の薄さが胸を締めつけるような感覚に懐かしさを感じた。

頂上はレソト王国。
どんな景色が広がっているのだろうという一心で一歩ずつ進んでいく。


レソト王国
5時間かけて山を登り切ると、そこには一面の草原が広がっていた。
レソト王国は通称「天空の王国」とも呼ばれるらしいが、ここに来てその理由をやっと理解する。
地上からは見えない山の頂上に、平地となだらかな丘でできた全く別の空間が存在している、
まさに秘められた王国のようだった。


ドラケンスバーグを一望!
山の頂上付近はコンドルが沢山生息していると噂に聞いていたので
Muayoさんにそのことを話すと、翌朝コンドルの巣がある崖へと連れて行ってくれた。

その場所へ近づいていくと、頭上には何十匹ものコンドルが大きな翼を広げて
優雅に浮遊していて、鳥好きの私とエリオットは大興奮。

断崖絶壁にある巣から立ち代わり入れ替わり飛び立つコンドルを見るのは初めてで、
どれだけ目がいいんだろうな、気持ち良さそうやな、などと話しながら、
いつまでも夢中で見ていてられた。



コンドルは飛んでいく

コンドルウォッチング
毎日今か今かと、クレイジーな嵐が来るのを待ち構えていたのだが、
結局私たちが山にいた4日間、一度も雨が降らなかった。
Muayoさんも「今年のクリスマスは雷雨の中歩くことになると思っていたよ」と笑い、
私たちの完全防水対策と心構えは出番なく終わった。

しかし私たちがMnweni村に到着してから数時間後、空全体が急に黒い雲に覆われ、
私たちが歩いていた方角は濃霧でまったく見えなくなり、大粒の雨と雷が鳴り出した。
そしてそれから2日間、延々と雨が止まなかった。
なんというタイミング!
山にとっても村人にとっても大切な恵みの雨が降ったことに、私たちはほっと一安心した。


南アフリカの違う一面を見せてくれたドラケンスバーグとMnweni村。
この山の緑と村人の笑顔にはまた必ず会いたいと思える、素敵な場所だった。

最後までちゃんと発音できなかったMuayoさん、本当にありがとう!
また会う日まで。

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