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2014/11/11

人に導かれる、ヒッチハイクという旅の方法


旅や旅行をすればするほど、その目的や方法は三者三様だとつくづく思う。

ガイドブックを片手に名所を巡る旅、
会いたい人に会いにいく旅、
ノープランで気ままに過ごす旅。

気の知れた仲間と行きたい場所を訪れる旅が最高に楽しいのは間違いないが、
予想しなかった人と出会い、自分では辿り着かなかったであろう場所へ導かれる旅は、
またまったく別のわくわくとドキドキをもたらしてくれることがある。

それを存分に体感したのが、ヒッチハイクで日本を巡ったちょうど1年前の旅だった。


わざわざバックして戻ってきてくれた仙台旅行帰りの青年

















ヒッチハイクで日本を縦断してみよう!と意気込んでスタートしたわけでは元々なく、
インドと東南アジア旅のあと、エリオットと数ヶ月間日本の友人宅でシェアハウスをする話
急におじゃんになったのが事の発端だった。

短期でいい条件の宿がなかなか見つからない→
ここ数ヶ月間ヒマラヤテント生活だったし、テントで過ごせるんじゃない?→
河川敷テント暮らしより、せっかくなら景色のいい場所でテント張りたいよね。。

そう考えていると、ガンジス河源流で出会った北海道の山奥で暮らしているという
トクさんの顔がふと思い浮かんだ。
彼に会いにいこう、そして北海道の山に登り、温泉に入ろう!
インド帰りの私たちが、死ぬほど温泉に飢えていたのは言うまでもない。

このプランを思いついてから北海道行きの航空券を予約するまで、時間はかからなかった。


トクさん自前のカヤックで釧路川下り


















そうして、公共交通機関が発達してない分ヒッチハイクが盛んだと噂に聞く北海道で、
ヒッチハイク移動を試みることにした。

初めのうちは、照れくささや本当に止まってくれるのかという疑念もあり、
親指を立ててアピールすることに戸惑いを感じたが、その不安はすぐに解消された。

とにかく予想以上に色んな人が車を停めてくれる。
私たちが親指を立てるよりも先に、車が停まってくれることも何度もあった。

仕事の途中、息抜きも必要だと言ってわざわざ高速に乗ってくれたおねぇさん、
将来ヨットで世界を一周するのが夢だと語ってくれたトラックのおじさん、
4時間かけて山奥にあるトクさんの家まで送り届けてくれた闘病中だというおにぃさん、
トラックから自家用車に乗り換えて、おすすめのテントスポット巡りをしてくれた青年。


年齢も職業も趣味もそれぞれまったく違う人々と、こんなにフラットに向き合って
話をする機会は普段めったになく、出会ったすべての人を今でも鮮明に思い出せるほど、
印象的で素敵な出会いばかりだった。

また、私たちを乗せてくれた人は、自らの意志で車を停めてくれた人たちなので、
私たちの話にとても興味を持って耳を傾けてくれる人や、
夢や自らの楽しみを語ってくれるきらきらした人ばかりだった。

そして、多くの人が別れ際に、「ありがとう!」と私たちに言ってくれることには驚いた。
感謝してもしきれないほどの無償のあたたかさをもらってるのは私たちの方なのに、だ。

もしも私たちが彼らの日々の一コマに、ささやかなアクセントを加えられていたのなら、
それほど嬉しく、幸せなことはない。


北海道 大雪山トレッキング















こうして、ヒッチハイクはただの移動手段ではなく、
明日はどんな人と出会うのだろう、どこへ導かれるのだろう、
という想像できない魅力に満ちた旅の方法だと知ってしまった私たちは、
その後、宮城、山形、茨城、東京、神奈川、三重、長野、富山、石川、広島、山口、四国を
友人を訪ねながらヒッチハイクで巡った。


山形のほっこりスケートパーク

















どの瞬間を取っても最高にかけがえのない貴重な時間だったこの旅の中で、
特に印象深かったエピソードをご紹介したい。



私とエリオットは、北アルプスでトレッキングをするため、長野県へ向かっていた。
何台か車を乗り継ぎ、長野県の安曇野サービスエリアに着いたときにはもう、
日が暮れかけていた。ヒッチハイクの唯一の難点といえば、時間が読めないことだ。

サービスエリアから、登山道のスタートポイントまで、車で二時間ほどの距離。
天気の具合からすると、できれば翌日の早朝からトレッキングを始めたい。
しかし今から暗闇の中でヒッチハイクを始めて、山奥にある登山道まで行ける可能性は
かなり低いだろうし、途中で車を降りた場合、テントを張れる場所を探すのも困難だ。

また登山道までいける公共のバスや電車もないため、
このままサービスエリアの片隅でテントを張り、
明日の早朝ヒッチハイクと徒歩で登山道を目指すか。。
となると明日トレッキングを開始するのは難しそうだな。。
どうしようか。。。

と、サービスエリアの壁に貼ってある地図を見ながら、頭フル回転でベストな方法を
考えていたのだが、どの選択肢もやってみないとどう転ぶか予想できないため、
決断に苦しんでいた。


そして、エリオットに意見を聞こうと、彼の座っているテーブル席をふと振り返ると、
ついさっきまで誰も居なかったエリオットの前の席に、
サンタクロースのような豊満な体格と白いヒゲの白人おじいさんがでんと座っていた。

日本のレトロな雰囲気のサービスエリアの席で向かい合う彼らの姿は
なんだか異様で、これは現実の光景かと二度見してしまった。

「このサービスエリアに毎週末5年間立ち寄っているけど、
外国人と出会ったのはこれが初めてだ!」
と、だらだらのTシャツとだぼだぼの半ズボンを身にまとった
サンタクロースおじいさんは嬉しそうに言った。

出来ればすぐにでもテントを張るか、ヒッチハイクを始めるか、
夜が深まる前に決断して行動に移したかったのだが、
彼のインパクトの強さに圧倒され、私も黙って席に腰を下ろした。


めざせ紅葉の長野!

















Larryと名乗る彼はアメリカ出身で、7歳の時に親の仕事の関係で日本に引っ越しきて以来、
50年間日本で暮らしているという。
今は大学で英語を教えていて、週末は長野の野尻湖にある別荘でゆっくりと過ごすのが
楽しみだそうだ。そして、その別荘に向かう途中にあるこの安曇野サービスエリアに
立ち寄るのが、いつものパターンらしい。
そして今回は、いつもと違って見知らぬ外国人エリオットと出会った、というわけだ。

おっきなバックパック持って、ここで何してるんだ?と聞かれたため、
ヒッチハイクで旅をしていて、今どう動こうか迷っていると、一部始終を説明した。

とても熱心に色々質問してくるので、もしや途中まで乗せてくれるのでは。。
とかすかな下心を抱いたが、一通り質問に答え終わると、
「俺はこのままハイウェイを上がっていくから、方向が違うな。」
とばっさり期待は打ち砕かれてしまった。

それでも、ラリーのトークはまだまだ終わらない。
エリオットとラリーの波長はまさにぴったり合っていて、会話がひたすら弾む。
エリオットの特技は、相手がたとえおじいちゃんの年齢でも、小学生でも、
さらに言うと猫でも虫でも、世代や種族を超えて友達になることだ。


話をすればするほど、ラリーの私たちに対する好奇心はどんどん膨らんでいったようで、
まっすぐ別荘へ向かわずたまにはちょっと寄り道してもいいか、、と思い出したらしく、
「この10kmほど先の分岐点までなら乗せていける。だけど、二人が乗れるように車を
片付けなきゃならない。」と言った。

その10km先がどんな場所なのかはさっぱりだったが、
とにかくラリーの好意をありがたく受け取ることにした。
その時私たちに「断る」という選択肢は1ミリもなかった。


進むべき道はひとつ
























ラリーの軽バンの車内は、予告通り本当に荒れていた。
書類が至る所に散らばっていて、本が山積みになっている。
そしてなぜか後部座席にはタンスが横倒しになって載っていた。
。。。確かにこれでは一人しか乗れるスペースはない。

私たちは座席の下に転がっていたロープで、タンスを車の天井に縛り付け固定し、
一瞬でだいぶすっきりとした車内に乗り込んだ。
そして、ラリーとの思いがけないドライブが始まった。

相変わらずエリオットとラリーの会話は止まらず、
まるで旧友のようにジョークを飛ばし合っている。
車は街灯のない真っ暗な田舎道をどんどん進む。

二人は会話に夢中になっていたため、道を気にしている様子がまったくなく、
確実に目的の分岐点は見逃してるよな。。と思っていたとき、
「Does anyone know where the fuck is here??」
とラリーがぽつりと言った。
私たちは、完全に道に迷ったようだった。

誰も地図も携帯も持っていなかったため、
唯一電気が灯っていた、昔ながらの車の営業所に道を尋ねるため止まった。
運良く、まだ店内には3人のおじさんがいた。

ラリーが流暢な日本で「黒部ダムの登山道方面に行きたいんだけど、」
と、おじさんたちに道を尋ねた。

するとおじさんたちは、
「こんな時期にテントで寝たら凍死するぞ!」
「熊が出るぞ!」
「あんたそんな太った体つきで山登れるのか!」
と一斉にまくしたてた。

するとラリーは、
「彼らはヒマラヤ行ってたくらいだから大丈夫なの!
 そしてこの体で山に登れないのはわかってる!
 俺は登らない!」
と勢い良く言い返した。

こんな感じのお互い初対面とは思えない一悶着がある程度続いたあとで、
おじさんたちはやっと道を教える気になってくれた。

一人のおじさんが裏紙に地図を書こうとするが、
なぜかテンパりすぎて地図を上手く書けない。
するともう一人のおじさんが、俺が地図を印刷してやる!
と慣れない手つきでパソコンをいじり始めた。
「口頭で大丈夫ですよ。」と伝えたが、もはやパソコンに集中していて聞こえなかったようだ。
3人のおじさんはあーだこーだと言い合いながら、やっとのことで地図を印刷してくれた。
しかし、印刷された地図には重要な目的地が切れてプリントされていなかった。

「なんとなく、書き足してくれたらいいですよ。」と言ったが、
再度地図の印刷にトライするおじさん。
次の地図もまた中途半端な部分が印刷されていたため、
最初の地図と二枚目の地図をわざわざテープで貼付けてくれた。

まさに、てんやわんや。

思いがけない夜の訪問者に、出来る限りのことをしてあげようという
おじさんたちの気持ちが存分に伝わってきた、濃いカオスな15分間だった。

私たちが店を後にするとき、おじさんたちの会話の内容から、
印刷を率先していたおじさんが店員さんではなく、お客さんだったことが判明した。
そして私たちが去ると、何事もなかったかのように席に戻り、
また話し合いを再開していた。


今晩は、ラリーに出会った時点でどこかの歯車が少しズレたようだ。


美しすぎる長野の風景






















「10km先の分岐点まで。」と言っていたのを、ラリーはとうの昔に忘れたようで、
気付くと彼の目指す先は私たちと同じ、登山道の入り口になっていた。

ラリーの軽バンは真っ暗な山を奥へ奥へと進んでいく。
「黒部ダムに行くのは、何年ぶりだろう。」と、彼はわくわくした様子で呟いた。

そして、サービスエリア出発から2時間半ほどかかって、登山道前の駐車場に到着した。
数時間前の私は、今晩中に目的地へ到着できるなんて、予想だにしなかった。
最終的にここまで送ってくれたラリーはさらに、今晩こんなドライブをするとは
思ってもいなかっただろう。

人との出会いが、日常のありふれた時間を一瞬で非日常に変えることがある。
時間と心に少しの余裕があるのなら、その奇跡的な出会いに身をゆだねてみるべきだ。
逆に言うと、そんな思いがけないキッカケを逃さないための、
時間と心の余裕は常に持ち合わせていたい。

そう思わせる、笑いの絶えない数時間だった。


連絡先を書くエリオット、と、ラリー



















別れ際にラリーは、外国人らしく、常備していたバナナと梨を私たちにくれた。


次長野へ行くときは、沢山のくだものを持って、ラリーの湖のほとりにある別荘を訪ねるだろう。
また一人、会いたい人が増えたことを、うれしく思った。

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