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2014/10/14

ヒマラヤ 標高5600mの世界 〜極めつけのザンスカール 2weeks編 最終章〜


ラダック州のあとに訪れる予定だったバラナシとコルカタをあきらめて、
ザンスカールのさらに奥地へと進むことを決めたのは、
バスで隣り合わせになったスイス人男性の話がきっかけだった。

「 数多くある壮大な仏教寺院の中でも、ザンスカール最奥地にある
プクタル僧院 (Phugtal)を目にしたときの数年前の感動は忘れられない。」

恍惚とした表情でその情景を思い浮かべながらそう言った彼の言葉が頭にずっと残り、
ついにその、プクタル寺院まであと少しというところまで来た。


寺院を目の前にして、、というよりチョコレートに大興奮の二人




















今にも崩れ落ちそうなガタガタの橋を渡り、
土の色が茶色から赤色へ変わりゆくのを感じながら峠をひとつ越えると、
岩壁の中腹に崖と一体化したプクタル寺院が姿を現した。


Phugtal 緑色の砂山背景
















10世紀以上も前に建てられたという建物の歴史深さと偉大さはもちろんのこと、
寺院を取り囲む特異的な地形に心と目をすっかり奪われてしまった。

この厳しい気候の土地で、しかもなおかつ崖に寺院を建てた昔の人の苦労は計り知れない。

そして驚くべきことに、今もこの人里離れたゴンパで
少年からおじいちゃんまで大勢のモンクがここで生活をしている。


ランチタイム


















私たちがゴンパの中へお邪魔したときはちょうど昼食タイムで、
現代風にいうと最高の景色のテラスで、皆集まり昼食のカレーを食べていた。
特にエントランスがあるわけでもなく、ごく自然に彼らの生活の中へトリップさせてもらえる。

ここで修行をして一生を暮らす彼らの目には、こうして時々訪れる外国人の私たちは
どう写っているのだろう?

与えられた境遇や環境はまったく違うものだけど、
同じ感情、同じ情動をもって生きている全く同じ人間だということは間違いない


ええ顔























ゴンパをあとにし、トレッキングは続く。

馬飼いのスリさんが、知り合いにちょっと用があるから待ってて、
と家が数軒だけある小さな集落で立ち止まった。

子供たちは、家畜の糞を投げ合ったり、
割れた陶器をおはじきのようにして外で遊んでいる。

その傍らで藁と土を混ぜ合わせて家の壁となるブリックを作っていたおじさんが、
水筒いっぱいに入った自家製ビールを進めてくれた。

。。かなりアルコールがキツい。


ある村の風景


















インドでの旅中、事ある度にお金を求められ、ぼったくられ、何度も悲しい思いをしたが、
こうゆう集落に来ると、お金がたいした価値を持たないことを教えてくれる。

自分たちの手で食べ物を作り、家を建てる彼らにとって、
お金はコカコーラを買うくらいの紙切れでしかない。

あるもので事足りる生活。

次こういった村にさしかかったときは、もう少しゆっくり彼らと共に時間を過ごしてみたいと思う。


ミラクルフレッシュな雪解け水と花崗岩でできた山
















数十メートル歩くごとに、川の色、土の色、山の形状が次から次へと変化する。

どの瞬間をとっても、記憶にとどめておきたい美しすぎる光景なのだが、
2週間毎晩テントを張り、この景色の中をひたすら歩き続けていると、
これだけ非現実的な場所にも不思議と馴染んでくる。

だけど身体はこの乾燥地帯にそう簡単には順応できないようで、
何気なく自分の体を見てみると全身かっさかさで真っ白に粉を吹いていて、ぞっとした。
エリオットとジェリーの手は乾燥しすぎておじいちゃんの手みたいになり、
指のしわがぱっくり割れて血が滲んでいた。


ザンスカールに住む人々は顔のしわがとても深く、実年齢よりとても老けて見える。
その理由を身に染みて感じ、この土地の厳しさを改めて知る。


赤と青の合流地点






















このメンバーで日々旅をしている中で、

エリオットとスリさんの間には師弟関係のような友情が生まれていた。

毎朝一番に目覚めるスリさんは、「 Elliot!! Wake up!!!」とまずエリオットだけを起こし、
2人でチャイをいれ、エリオットが皆のテントにチャイを運び、皆を起こす。
というのが毎朝のお決まりパターンになっていた。
そして私がテントや食器を片付けている間に、エリオットとジェリーが
自由に散らばって草を食べている馬たちを、スリさんの掛け声をマネして集め回る。

一般的に馬飼いは、前と後ろに一人ずつ付き、2人1組で行動するらしいのだが、
スリさんは一人で馬たちを引率していた。

そのおかげでエリオットが馬を世話するもう一人の相方役になり、距離がとても縮まった。


集められた馬たち 出発を待つ

















スリさんは家が5軒だけあるザンスカールの集落で生まれ育ち、
馬を飼い、ささやかな農業をして生活をしている。

学校は一週間近く歩いた街にしかないため、彼は生涯学校へ通ったことがないが、
独学と私たちのような登山をする外国人と接することで、完璧な英語を話すことができた。


毎晩降り注ぐ満天の天の川を眺めながら、
「 数え切れないたくさんの星集まってあんな風に雲みたいに見えるのって不思議だよね。」
と話していると、スリさんが「え、どうゆうこと?」と困惑した。
もう少しエリオットが詳しく説明したが、とても理解できないという様子だ。

私たちは学校でそれを習ったので、天の川を星の集合体として認識し眺めていたが、
スリさんはそれを、毎晩夜空に「当たり前に存在しているもの」として、
特に疑問も抱かず、そのままを受け入れていた。

それはなんだかとても不思議な感覚で、知識として知っていた方が為にはなるが、
知らなくてもいいこともたくさんあるのかもしれないと思わせた。


銀河系
















そんなスリさんとの貴重な時間も、終わりが近づいてきていた。

標高は5000mを超え、明日の朝にラストの峠を越える体力を温存するため
時間に余裕を持ってテントを張り、川で体を洗った。

川の水は氷水で、私は顔を洗うだけで手がかじかんでたまらなかったのに、
エリオットはパンツ一丁になって水浴びをしていた。。
綺麗な水があればどこでも飛び込まずにはいられない、おそるべし欧米人。


翌日に向けてのキャンプポイント


















この晩はとても冷え、翌朝起きるとテントには氷が張っていた。

じっとしていると凍えてしまいそうだったので、テキパキと片付けをし、いざ雪山へ!


足元が雪で覆われ出すと、酸素を雪が吸収しているかのように急に息苦しくなった。
数歩歩くだけで息が切れる。だが、足は止めない。
しんどいけど、気持ちのいいしんどさに、頭の中がクリアになる。
頂上からの景色を早く眺めたいという思いと、
まだこの感覚を味わっていたいと思いが交差する。


最高到達地点
















そして雪と氷の登り坂を登りきると、白と青の美しき世界がそこには広がっていた。

標高5600m。


始めエリオットがヒマラヤへ行きたいと言い出し、
どれくらい高くまで登るの?と聞くと、4000~5000mくらい?と軽く言ったとき、
こんな登山未経験の自分が登れるものなのか分からなかったし、
そこがどんな世界なのかもまったく想像がつかなかった。

ここにたどり着くまでの道のりは死ぬほどキツくて、恐ろしいこともあったけど、
この景色を眺められて本当によかったと心から思う。
一人では確実にたどり着けなかった場所。

重要なのは、到達したその標高の高さでも有名な山の登頂でもなく、
そこまでの過程がすべてだ。

重い荷物を自分で担ぎ、テントを張り、自炊をし、
人と出会い、支え合い、そういった根本的な生きるための力をヒマラヤから教わった。



雪山を越えてからの数日はとても穏やかで、もうビビるようなことはないだろうな、
今思うと崖の斜面を横切るとかゆうスリル、たまんなかったなと思っていたら、
最後の最後にまたそのスリルを味わうことに。



激写!
















山の至る所から雪解け水が流れ出し、川を飛び越えながら渡り歩かなければ箇所が日に日に増えていた。

そしてラストキャンプスポットまで後少しというところで、大きめの激流に遭遇。

男性陣が助走をつけてぎりぎり飛び越えられる幅だったので、
私が飛び越えられるかはかなり微妙なところ。
川に流されるというリスクを考えて、靴と靴下を脱ぎ、ズボンをたくし上げて川へ入る事に。

川の深さは私の太ももまであり、強い流れに押し流されそうになる。
足を滑らせたら、かなり面倒なことになるのは目に見えている。
対岸のエリオットの手を必死で取り、無心でなんとか渡りきった。
凍るような水の冷たさも、足にぶつかってくる石も構わず、
数分の間に最後の集中力を使い果たした。


やっぱり、スリルはほどほどが一番だ。

記念の集合写真

















私たちの歩いたトレイルの終わりには、道路を作るためのショベルカーが立ちふさがっていた。

近い将来、ここにも車が行き交うようになる。


ザンスカールがこれから変わっても変わらなくても、
ここに住む人たちが幸せでありますように。

そしてこのかけがえのない自然が地球から失われませんように。

そう願わずにはいられない。


スリさんと馬たち、そして一緒に歩いた仲間たちに心から感謝を。

私の価値観を変えたヒマラヤ。
また会う日まで!








Thank you for the amazing photos Jerry!

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